予知保全とは?
予知保全は、設備の健全性をリアルタイムで継続的に評価し、総所有コストを最小限に抑えながら、設備のパフォーマンス、稼働時間、耐用期間を最大化するのに役立ちます。
予知保全の定義
予知保全とは、設備資産が何を伝えようとしているかを理解することに重点を置いた保全手法です。工場の機械、トラック、産業用機器、これらは何年間も語りかけていたのです。その声に耳を澄ますことができれば、いつ故障しそうなのか、もっと長くスムーズに稼働させるには何が必要なのかが見えてくるはずです。
予知保全を行うことで、設備の故障を予測し、必要なときに必要な場所でメンテナンスを実施できるようになります。これにより、設備に無理を強いてコストのかかる故障を早めるようなリスクを負うことなく、設備を最高のパフォーマンスで稼働させるのに必要な情報が手に入ります。IoT 対応の設備資産をつなぎ、それらが生成するリアルタイムのデータに高度な分析を適用し、そうして得られたインサイトに基づいて費用対効果の高い効率的な保全プロトコルを提供することで、予防保全は設備の故障やダウンタイムを防ぎ、重要な設備資産の耐用期間を延ばします。
予知保全が非常に重要である理由
コストがかかり、混乱を引き起こしかねない設備故障を未然に防ぎ、時間と費用を節約する上で、予知保全は重要な役割を果たします。製品の安定供給に対する消費者の需要が高まる中、予知保全プログラムを導入している組織は、中断なく生産を続けることができます。その結果、継続的な顧客ロイヤルティ、収益の増加、競争優位性の改善がもたらされます。
スマートな予知保全ソリューションであれば、設備資産のメンテナンスが必要な時期を予測し、コスト効率を高め、複雑な設備資産管理の要件を合理化することができます。要するに、予知保全テクノロジーを導入すれば、時間や費用、手順に関する頭痛の種を取り除けるわけです。
予知保全の仕組み
予知保全は、設備のデータをリアルタイムで取得・分析し、設備が故障してしまう前に潜在的な問題を予測することで機能します。
このプロセスの最初のステップは、設備の状態に関する情報を送信するネットワーク化された IoT センサーから、リアルタイムのデータや情報を収集することです。次に、このデータを容易に利用、処理、分析できる形で保存し、管理しなくてはなりません。最後に、人工知能 (AI) と機械学習テクノロジーをこのデータに適用して、有用で実用的なインサイトに変換することで、「予知」の要素が発揮されます。
予知保全と産業用 IoT (IIoT) ネットワークのアーキテクチャーには、以下の 4 つの基本工程があります。
予知保全の流れ
- 振動や温度、湿度、圧力、異音など、機器の状態を監視できるセンサーからデータを収集する
- このデータをネットワークを介して中央業務システムにリアルタイムで転送する
- AI や機械学習アナリティクスなどのインテリジェントテクノロジーをこのデータに適用し、有用で関連性の高いインサイトを引き出す
- こうして得たインサイトに基づき、自動対応や人の手によって迅速に対応する
予知保全テクノロジーの使用
状態監視
予知保全は、機械やソフトウェアをインテリジェントな IoT ネットワークに統合するサイバーフィジカルシステムによって実現されます。このようなネットワークを構築するには、設備資産の監視条件を特定することから始めます。
設備資産の条件を特定するのに必要な解析手法には、視覚的、聴覚的、熱的なものがあり、一般的にこうした基準を組み合わせて使うことがほとんどです。この時点では、適切なセンサーと監視ツールを決めることに重点を置きます。
振動解析:振動パターンの小さな変化は不均衡やずれのサインかもしれず、高い振動レベルは緊急対応が必要な問題がベアリングに発生していることを示しているかもしれません。振動解析は、故障を早期に警告でき、不均衡やずれ、機械的な緩み、部品の摩耗・損傷を検出するのに特に役立ちます。
音と超音波の分析:ほとんどのシステムでは、通常時、動作音のパターンは安定しています。この基準となる動作音のパターンが変わることで、摩耗や何らかの劣化が分かることがあります。また、超音波分析では、蒸気や空気の漏れなどによって発生する高周波音を可聴域に変換することで、システム全体の健全性についての情報を得ることができます。
赤外線分析:超音波解析と同様に、サーモグラフィも、赤外線解析によって温度変化を可視スペクトルに変換し、隠れている問題個所を発見することができます。通常時の動作温度のわずかな変化でも、重大な問題の発生を警告することができます。
流体解析:流体の物理的および化学的解析は、単に水位と温度を監視するだけではなく、機械部品の状態に関する貴重な情報をもたらしてくれます。冷却材や潤滑油の劣化率を検出し、その洞察が正しいと確認されしだい、予防措置を講じることができます。
その他:ほかにも、さまざまな産業固有のニーズに特化した予知保全テクノロジーがあります。例えば、レーザーアライメント、電気回路監視、亀裂検知、故障検知、腐食監視、電気抵抗変化のほか、腐食や劣化を測定する業界固有の手法などがあります。
代表的な予知保全テクノロジー
上記の条件を設定したら、適切なセンサーとモニターを取り付け、クラウド接続された IoT ネットワークを介して、中央業務システム(一般的には ERP システム)に接続する必要があります。そして最後に、AI 駆動型ソリューションを導入して、データを分析し、収集したデータから実用的なインサイトやレコメンデーションを導き出す必要があります。
IoT ネットワーク:設備資産にセンサー、処理能力、その他のテクノロジーが加わると、通常はクラウド接続を介して中央業務システム間でデータが送受信されるようになります。こうして IoT ネットワークが構築され、予知保全戦略の基盤となります。
IoT ゲートウェイ:デジタル技術が導入される以前のアナログ技術が使われている古い設備の多くは、今でも十分に機能します。これらの機器にカメラ、マイク、温度計などの IoT ゲートウェイを搭載することで、機器の動作状態をリアルタイムに収集・送信することができます。
クラウド接続:クラウド接続により、コンピューターシステムリソースがオンデマンドで利用できるようになります。複数の設備資産で構成される IoT ネットワークでは、分散するデータセンターが単一のデータベースとシステムに統合されていることが必須になります。
最新のデータベースと ERP:ディスクベースのレガシーデータベースでは、ビッグデータや複雑なデータセットが含まれる膨大で非線形なデータを管理することはできません。このようなデータに対して、予知保全では AI や機械学習を使って高度なアナリティクスを行います。このプロセスには、高速かつ即応的で、ほぼ無限に拡張可能なインメモリーデータベースを備えた、最新の AI 対応 ERP が最適です。
AI と機械学習:機械学習は AI の一部であり、アルゴリズムを使ってデータを分析し、理解します。予知保全ソリューションは、AI と機械学習を活用して、設備資産の運用データを分類、理解、学習するだけでなく、実用的なレコメンデーションやインサイトを提供します。
高度なアナリティクス:AI と機械学習が高度なアナリティクスをサポートします。マネージャーは、評価すべき属性と条件に加え、目指すべき分析結果を決定する必要があります。そうすることで、高度なアナリティクスを実現するアルゴリズムを、可能な限り洞察的で実用的なものにし、時間の経過とともにデータや新しい経験から最適な学習ができるようにプログラミングすることができます。
デジタルツイン:デジタルツインとは、実際の物理的な設備資産を仮想的に再現したものです。デジタルツインを作成することで、マネージャーは、実際に高価な機械やデバイスを損傷させることなく、仮想上であらゆる可能な運用シナリオを検討することができます。これにより、機械学習や AI ツールが、実際には起こっていない状況を経験として学習することで、予知保全の強化につながります。
予知保全と予防保全の比較
予知保全と予防保全の違いは、メンテナンス作業を行う方法ではなく、タイミングにあります。
予防保全:過去の実績、エンジニアやオペレーターの知識・経験によって判断されるメンテナンスです。定期的、周期的、計画的、使用時間ベースのメンテナンスがあります。故障を未然に防げることも多い反面、正確さに欠けるため、メンテナンスが必要になる前に高額なメンテナンスが行われたり、メンテナンスプロセスの弱点に気づかないまま実行されてしまうことがあります。予防保全は、あらかじめ設定された時期に行われるため、不具合が発生するずっと前に行われることも少なくありません。
予知保全:すべての設備資産が IoT ネットワークを介してエコシステムに統合されたときに初めて効果を発揮するメンテナンスです。リアルタイムでデータを送信し、分析することができるため、保全プロトコルは、予定表ではなく、設備資産の状態のリアルタイム監視を基盤とします。予知保全は、必要なときに必要な場所でリアルタイムに行われます。
その他の設備資産の保全手法
事後保全
設備の突然の故障や不具合に対して行われるメンテナンスです。この種のメンテナンスは想定外に発生することが多く、ダウンタイムとコストの増大を引き起こしかねません。
是正保全
設備の欠陥や不具合を修正するために行われるメンテナンスです。この種のメンテナンスは通常、問題の特定後に実施され、さらなる問題の発生を防ぐのに役立ちます。
予測提案型保全
特定の設備に対して、メーカーの推奨やガイドラインに基づいて行われるメンテナンスです。この種のメンテナンスは、メーカーが定めた保全作業スケジュールに沿って行われます。
状態基準保全
事前に設定されたスケジュールではなく、設備の状態に基づいて行われるメンテナンスです。この種のメンテナンスでは、監視と検査を用いて作業が必要なタイミングを決定します。不要な保全作業を減らし、ダウンタイムを最小限に抑えることができる一方で、状態基準保全は手作業を多く含み、時間がかかります。
信頼性重視保全
設備の信頼性や重要度に基づいて作業の優先順位を決定するメンテナンスです。この手法では、設備の信頼性と効率の最大化を目的として、最も重要な保全作業を特定することに重点が置かれます。
設備資産の保全における進化
次のグラフ(Deloitte より引用)は、産業革命における技術力の進歩と、その結果生じた保全戦略や設備機器の有効性への影響を示したものです。
予知保全の使用事例
石油・ガス分野:石油掘削では、設備の摩耗が激しく、故障が発生した場合、大きなリスクと危険が伴います。石油の温度や掘削装置のギアボックスの回転数などを監視する予知保全により、安全性が大幅に向上し、メンテナンスコストを最大 38% 削減することができました。
自動車産業:組立ラインでは、スポット溶接ガンが 1 日あたり約 15,000 個のスポット溶接を行っています。世界中の溶接ガンを接続し、その稼動データを収集することで、自動車メーカーは、数百万件ものデータを収集することができ、これらの設備資産の状態や稼働状況について、これまでにない予測精度を達成しています。
家電製品製造業:乾燥機の生産において、ドラム回転の振動を測定し、不具合や故障の予知が図られています。この予知保全アプリケーションは、製造不良を 33% 削減し、消費者の保守コストを 27% 削減しました。
鉄道の設備資産管理:線路の下に空洞ができる「ボイド」が発生すると、遅延や脱線につながる可能性があります。最近のイノベーションにより、レール上を走行しながらさまざまな変数を監視する運転台ベースのシステムが開発されました。これにより、ボイドの検出率が上がり、乗客の安全性が全体的に向上しました。
鉄鋼業界:鉄鋼業では、鉄鋼加工に使われる冷間圧延機の振動、回転速度、電流(アンペア)をリアルタイムに収集し、異常検知を行っています。これにより、設備の耐用年数が 60% 延長され、ダウンタイムや遅れによる損失が大幅に削減されました。
予知保全プログラムのメリット
予知保全システムはさまざまな業界に導入され、素晴らしい成果を上げています。Deloitte の 2022 年版レポートには、定量化できる改善例が数多く挙げられています。その中には、ダウンタイムの最大 15% 削減、労働生産性の 20% 向上、予備部品の在庫削減による在庫量の 30% 削減などが含まれています。
AI や統合 ERP などのテクノロジーの導入によって、実際に役に立つ予知保全ソリューションのメリットが明らかになりつつあります。主なメリットをいくつかご紹介します。
オペレーション全体の可視性の向上:現場の設備資産やオフサイト機器に対する可視性が向上するため、OEM やサードパーティーサービスプロバイダーは、より精度の高い情報に基づいたサービスを提供し、より大きな価値をもたらすことができます。
保全コストの削減と設備資産パフォーマンスの改善:予知保全によって、ダウンタイムを最小限に抑えることで、コストを削減し、既存の設備資産の耐用年数を伸ばしながら稼働率を高められるようになります。
チームの能力強化:データサイエンスやリアルタイム分析を活用することで、設備資産オペレーター、サービスプロバイダー、サプライチェーンマネージャーは、問題が起きてから対応する「消防士」から、計画や戦略の立案者へと移行することができます。
予知保全の主な課題の克服
このセクションでは、予知保全を行う際に直面する主な課題に焦点を当てて、それを克服するための戦略について説明します。
データの品質と可用性:予知保全の成功は、過去データの品質と量に左右されます。データが低品質だったり、十分に揃っていなかったりすると、予測が不正確になる可能性があります。データ品質を確保するためのベストプラクティスは、主要な関係者の協力を得て、データガバナンスプログラムを確立することです。
IoT 接続:接続された IoT ネットワークを構築するには、センサーを備えたスマート機器やエッジデバイスが必要で、こうした機器はデータレイクに接続し、フラットファイル形式でデータを送信できるものでなくてはなりません。どのような IoT データソースにも問題なく接続できるように、接続シナリオを簡素化することに重点を置きましょう。
IoT デバイス管理:IoT ネットワークデバイスの管理では、サイバー攻撃に対する脆弱性を最小限に抑えるために、デバイスのセキュリティに重点を置く必要があります。同時に、デバイス間の相互運用性を高め、必要に応じて拡張することも求められます。このバランスをうまく取るには、組み込みの高度なデバイス管理機能と堅牢な接続機能をサポートする最新の設備資産パフォーマンス管理ソリューションを採用することをお勧めします。
データ統合:IoT センサー、レガシーシステム、保守記録など、さまざまなソースから収集したデータを統合するのは、複雑で時間がかかることがあります。データ統合のニーズを満たせるよう、強力なエンタープライズレベルの統合プラットフォームを選び、事前構築済みコネクターの包括的なライブラリーを備えたものを探す必要があります。
センサーデータの複雑さ:IoT センサーのデータは分かりにくく、データに関する専門知識が必要になることが多いため、信頼性エンジニアの障壁になる場合があります。技術者でなくても理解でき、取り扱えるようなデータを抽出できる設備資産パフォーマンス管理ソリューションを探すことが重要です。
アルゴリズムの選択:予知保全に適したアルゴリズムを選ぶことが、予知保全を成功させる鍵となります。具体的な事例やデータの特性を慎重に検討し、自社の機械やビジネスニーズに最適なアルゴリズムを選択するようにしてください。
保全戦略との統合:予知保全を導入するには、既存の保全戦略やワークフローに組み込む必要があります。その際、変化への抵抗や組織の慣性により、導入がうまくいかないこともあります。予知保全の導入を成功させるには、強力なリーダーシップ、経営層の支援、明確なコミュニケーション、専門的な変更管理が不可欠です。
3 つのステップで簡単に予知保全プログラムを導入する方法
- 目的の明確化と対象範囲の決定:まず、各設備資産に適した監視条件を特定します。例えば、赤外線サーモグラフィは、空気や蒸気の漏れが予想される機器に最適であり、振動分析は、回転する機器に適していますが、回転速度の遅い機器(5rpm 未満)には向きません。低速回転の装置には油分析や音響分析が適しています。また、監視の対象範囲を定めるようにしましょう。例えば、ある特定の設備資産だけを監視するのか、それとも広範囲にわたって監視を行うのかを明確にする必要があります。
- 適切な IoT センサーの設置:監視対象の設備資産ごとに最適な分析手法に従って IoT センサーを設置し、データ収集を開始します。これらのセンサーが、設備資産パフォーマンス管理ソリューションに一般的に組み込まれているようなデータ処理システムにつながっていることを確認し、コストや時間、人的ミスを削減します。
- プロトコルの設定:異常検出時に効果的な対応が取れるよう、設備資産を効率的に修理でき、稼働時間の目標に沿ったプロトコルを設定します。このプロトコルは、自動対応や手動対応を選択することができ、両方を組み合わせることも可能です。
予知保全ソリューションでサプライチェーンを変革
社内のさまざまな業務を最新化したにもかかわらず、資産保全分野においては何十年も変えていないという企業はめずらしくありません。長年続いているプロセスを変えることは簡単ではなく、従業員から賛同を得にくいという特徴もあります。ビジネス変革計画の成功を目指すには、しっかりとしたコミュニケーションと変更管理戦略を構築して、従業員の関与、および部門間の障壁排除から始めることが必要です。お客様独自のニーズに最も適しているツールやソリューションを確認したり、社内でロードマップやデジタルトランスフォーメーションを進める際には、まずソフトウェアベンダーにご相談ください。