サプライヤーリレーションシップマネージメント (SRM) とは?
サプライヤーリレーションシップマネージメント (SRM) は、組織に物品や資材、サービスを供給するベンダーを継続的に評価する手法です。
ほんの数年前までは、顧客は商品が届くまで何日も、あるいは何週間も待つことをいといませんでした。競合他社はすべて把握できており、市場のトレンドは概して緩やかで安定していました。ところが、今や状況は一変し、現代の消費者は、通常はデジタルカタログを見ながら、世界中からリアルタイムに買い物をします。製品(さらには業界)のトレンドは、数日とは言わないまでも数週間で定着することがあります。そこにパンデミックや政治、気象現象によるサプライチェーンの混乱が重なると、非常に目が回るような状況に陥ります。顧客がビジネスを構築するのと同様に、サプライヤーはビジネスを支える基盤です。今日の最高のソフトウェアソリューションと業務イノベーションは、企業が競争するだけでなく、今日の複雑で目まぐるしく変化する世界で成功する上でも必要なサプライヤーリレーションシップマネージメント戦略の策定に役立っています。
サプライヤーリレーションシップマネージメントの重要性
サプライヤーリレーションシップマネージメント (SRM) の手法は、1980 年代に企業にサプライヤーを評価するための体系的で一貫した戦略を提供する方法として始まりました。SRM のルーツは、サプライヤーのセグメンテーションに関する革新的な視点を導入した、著名な調達およびサプライチェーンアナリストであるピーター・クラリック (Peter Kraljic) 氏の研究に遡ることができます。彼は、サプライヤーを基本的にリスクと収益性という 2 つの重要な次元にマッピングする「Kraljic マトリックス」と呼ばれるものを開発しました。例えば、エレクトロニクス企業はマイクロプロセッサーと事務用品の両方を必要としますが、前者を供給するベンダーは後者を供給するベンダーよりも会社の成功にとってはるかに重要です。このため、サプライヤーリレーションシップマネージメントでは、すべてのベンダーとの良好な関係が重要であるものの、ビジネス上の依存度が最も高いサプライヤーとの強固で透明性のある関係と継続的な評価戦略を構築することが特に重要であるとされています。
最新のサプライヤーリレーションシップマネージメントの手法やソリューションは、分析コンポーネントと戦略コンポーネントを活用して、企業のベンダーとの関係の管理に対するアプローチに変革をもたらすことができます。
SRM とサプライヤー管理の違い
「サプライヤーリレーションシップマネージメント」と「サプライヤー管理」という用語は、同義語として使用されることがよくありますが、厳密には同じものではありません。サプライヤーリレーションシップマネージメントは、その名のとおり、サプライヤーとの関係を管理する手法です。それに対し、サプライヤー管理はさらに広範囲にわたり、リレーションシップマネージメントだけでなく、サプライヤー情報、パフォーマンス、リスク管理のほか、予測コラボレーションなどのアクティビティも含みます。
SRM という用語自体はかなり前から存在し、特にエンドツーエンドのサプライヤー管理スイートの全機能を必要としない中小企業をはじめとする多くの企業で今も使用されています。しかし、今やサプライヤー管理の方が現代的な用語で、多くの場合、中堅企業や大企業の複雑なニーズを満たす新しい高度なクラウドベースのツールを表す場合に使用されます。
サプライヤーリレーションシップマネージメントプロセス
これは、次の 5 つの重要なステップで構成される循環型の取り組みです。
- サプライヤーのセグメンテーション:この初期フェーズではサプライヤーベースの分類を行います。これは、インサイトの獲得、潜在的なリスクやコスト削減機会の特定、サプライヤーとの関係強化に役立ちます。セグメンテーションは、ビジネスにとって最も価値のあるものに応じて、品目の種類、数量、リスク(Kraljic マトリックスを使用)、場所、価格、持続可能性などのさまざまな基準に基づいて行うことができます。
- サプライヤー戦略の策定:次のステップは、セグメンテーションから得られたインサイトに基づいて、状況に応じた戦略を策定することです。これには、契約と価格の交渉、コミュニケーションプロセスの強化、サプライヤーの分散によるリスクと依存度の最小化などが含まれます。
- 関係の構築:サプライヤーとのつながりを深めることに重点が置かれます。取引を超えて、価格変更、プロモーション、潜在的な供給不足の早期通知など、エンドツーエンドのコミュニケーションを含む関係を育てます。基本的に、サプライヤーが貴社を理解し、貴社のビジネスニーズに応えられるようにします。
- 戦略の実行:戦略策定段階で特定された戦術とイニシアチブを実行に移して、セグメント化されたサプライヤーグループごとにパフォーマンスの向上、価値の向上、設定された目標の達成を図ります。これには、契約管理、受注処理、パフォーマンス管理のほか、戦略的目標が購買組織とそのサプライヤーの双方にとってメリットとなる具体的な成果につながるようにするための、サプライヤーとの積極的なコラボレーションなどが含まれます。
- 監視と継続的改善:効果的なサプライヤーリレーションシップマネージメントには、サプライヤーパフォーマンスの継続的な監視が不可欠です。これには、納入の適時性と正確性、製品品質、コスト効率、リードタイム、即応性などの評価が含まれます。パフォーマンスデータはサイクルにフィードバックされ、次回のセグメンテーションと戦略策定に情報を提供し、そのたびにパフォーマンスの向上や問題点の解明につながる好循環が生まれます。
サプライヤーリレーションシップマネージメントの目的とメリット
サプライヤーエンゲージメントを強化すると、成功の機会が拡大します。
サプライヤーとの関係強化:サプライヤーとの関係を深めることは、取引レベルを超えて連携を深めることを意味します。これには、パートナーシップや信頼の構築、相互の理解、目標の共有などが含まれます。これにより、貴社とサプライヤーの双方がお互いの目標、脅威、機会を一層理解できるようになります。
コストの削減:サプライヤーの業務とコスト構造を理解することで、企業はベンダーと協力して、品質を犠牲にすることなくコスト削減が可能な領域を特定できます。これは、価格交渉の改善、一括購買のメリット、総所有コストの削減につながる可能性があります。
サプライヤーリスクの軽減:サプライヤーリレーションシップマネージメントを適切に実施することで、認識とリアルタイムの可視性が向上し、リスクの特定、評価、軽減をより迅速かつ確実に行うのに役立ちます。俗に言うように、知らないことはわかりません。スマートな調達・購買ソリューションと SRM プラクティスを活用することで、備えが整い、自信が深まります。
サプライヤーの即応性の向上:サプライヤーが貴社を理解し、貴社の成功にかける思いがあれば、特に緊急時に貴社のニーズを満たそうと一層の努力をする可能性が高くなります。こうした即応性は、時間的制約のある状況や不測の事態において大きな違いを生む可能性があります。バイヤーとセラーの関係が緊密になればなるほど、即応性は高まります。
サプライヤーコラボレーションの迅速化:コラボレーションや情報共有をデジタルかつリアルタイムに行う方法をサプライヤーに提供することで、混乱への対応を迅速化し、ビジネスの俊敏性を高めることができます。多くの場合、これはバイヤーとセラーがプロセスと情報を共有してつながり、取引を行い、連携する、多対多の B2B コラボレーションプラットフォームであるマルチエンタープライズサプライチェーンビジネスネットワーク上で行われます。
可視性と透明性の向上:優れたサプライヤーリレーションシップマネージメントは、透明性を備えています。そのため、パフォーマンス指標、すべてにおけるその重要性、および全員が監視対象であるという事実が明確に伝わります。この現実的で率直なアプローチは、サプライヤーに良い印象を与え、単に監視を恐れるのではなく、貴社とのパートナーシップの一環として高い基準を維持することを促します。
バリューチェーンの最適化:サプライヤーリレーションシップマネージメント戦略は、サプライヤーの業務を貴社のビジネス目標に合わせて調整することで、サプライチェーンとバリューチェーンの合理化を支援します。これにより、チェーン全体にわたってチェーン内の各リンクが可視化され、効率的に機能し、ビジネス全体の成功に貢献できるようになります。
サプライヤーの能力に関するインサイト:データや情報にアクセスすることで、サプライヤーのビジネスにおける強み、能力、可能性に対する理解を深めることができます。例えば、新しい製品やビジネスモデルを導入する場合、現在の供給ベースがそれらのニーズを満たすことができるかどうかや、新しいサプライヤーを見つける必要があるかどうかを評価できます。サプライヤーランドスケープ内の能力と制限を把握することで、より深い洞察力で確実に推測し、方向転換することができます。
サプライチェーンの混乱からの保護
人々は、コロナ禍が起きて初めて、私たち全員がサプライチェーンにどれほど依存しているかを十分に認識しました。優れた企業は、危機に瀕していることを認識し、サプライチェーンとそれを実行するシステムおよびプロセスを積極的に最適化し始めました。その一環として、レジリエンスと自信を持って不確実性を乗り切るために、サプライヤー関係管理の改善が急務となっています。サプライヤーとの強固な関係を築き、継続的な監視を維持することで、混乱を予測し、俊敏に対応することができます。
サプライヤーリレーションシップマネージメントの課題
たとえ強力なサプライヤーリレーションシップマネージメントプロセスを導入しても、常に警戒を怠ってはならないリスクと課題が依然として存在します。
サプライヤーの多様性の欠如:少数のサプライヤーと良好な関係を築くことは、多くの理由で素晴らしいことです。しかし、特定のベンダーへの依存度が高すぎると、脆弱性とリスクが常に伴います。幸い、SRM ソフトウェアソリューションは、サプライヤーリレーションシップマネージメントの時間を要する多くの管理要素を管理するのに役立ちます。その結果、空いた時間を生かして 1 対 1 の関係を新たに構築したり、従来よりも多くのベンダーと関わったりすることができます。
不一致:時に、サプライヤーが競合他社になったり、サプライヤーのアジェンダやビジネスモデルが変わって、条件面や価格面で以前のように折り合わなくなったりすることがあります。これは、親密で友好的な関係を築いていた場合は厄介な事態となる可能性があるため、こうしたシナリオを予測し、このような事態が発生した場合に備えて外交的なコミュニケーションおよび交渉計画を策定することが不可欠です。
リスクと継続性の障害:私たちは、国際政治からパンデミック、気象危機まで、次に起こりうるサプライチェーンイベントに関して、「絶対にないとは言えない」ことを学んでいます。サプライヤーとの良好な関係を築くことは、不確実性に対する重要な緩衝材ですが、残念ながら万能薬ではありません。最近では、AI を活用したソリューションやテクノロジーを生かして、データへの取り組みを改善し、先を見据えて、緊急時対応計画を策定することも重要です。
可視性の課題:サプライヤーリレーションシップマネージメントはサプライヤー業務の可視性を高めますが、完全な透明性を実現することはできません。IoT センサー、ブロックチェーン、GPS 追跡などの技術的補助と信頼をうまく両立させることで、サプライヤーの自律性を損なうことなく、可視性を維持するのに役立ちます。
サプライヤーリレーションシップマネージメントの例
サプライヤーリレーションシップマネージメント戦略とソリューションは、以下の重要なセクターがそれぞれ固有のニーズや問題を管理するのに役立ちます。
- 医療:医薬品から手術設備までの製品品質は、この分野では文字通り生死に関わる問題です。医療業界におけるサプライヤーリレーションシップマネージメントには、多くの場合、サプライヤーの厳格な審査プロセス、定期的な品質監査、医療基準や医療規制を遵守するための厳格なコンプライアンスチェックが含まれます。例えば、サプライヤーの製品がリコールや品質問題の対象になった場合、病院はリアルタイムでアラートを受け取ることが可能で、代替供給元を見つけて潜在的な悪影響を防ぐために迅速に対応できます。
- 小売:ファッショントレンドは、ソーシャルメディアのペースで訪れ、文字通り一夜にして消えてしまうこともあります。小売業界におけるサプライヤーリレーションシップマネージメントは、サプライヤーとのコラボレーティブな予測と計画を促進し、適切な商品について流行中は供給を確保し、流行が廃れたときに不良在庫化しないようにすることができます。例えば、高額の限定版商品を販売する小売業者は、サプライヤーと緊密に連携して地域別に注文を調整することで、余剰のない供給を確保できます。
- エネルギー:公益企業は、導入から数十年が経過した資産を扱っており、稼働し続けるために珍しい部品や設備が必要になることがよくあります。また、排出削減やサステナビリティ対策の強化を求める圧力の高まりにも直面しています。昔ながらの部品サプライヤーと最新のスマートパワー設備のハイテクベンダーでは、業務も手法も大きく異なります。サプライヤーリレーションシップマネージメントは、公益企業がこれらの異なるタイプのサプライヤーの管理方法を一元化して統一し、顧客の重要なエネルギーニーズに対応しながら、サステナビリティ基準の遵守を維持できるようにするのに役立ちます。
- 輸送:この業界の企業は、信頼性の高い設備と消耗品の適時の供給に依存しています。この業界の有効な SRM の例として、車両保守のために部品サプライヤーとの関係を緊密に管理したり、余剰在庫を抱えることなくすべての部品を必要に応じて確保したりすることなどが挙げられます。物流会社は、サプライヤーリレーションシップマネージメントツールを使用して、多様なサプライヤーネットワークの信頼性を評価することで、自信を持って事業の拡大や多角化を図ることができます。
- 建設:この業界の企業は、工期の圧力に絶えずさらされており、多種多様な資材サプライヤーとの関係を維持する必要があります。建設会社は、サプライヤーリレーションシップマネージメントソフトウェアを使用して、複数のプロジェクトにわたってサプライヤーのパフォーマンスを追跡することで、常に納期を守り、品質仕様を満たしているサプライヤーを特定できます。これは、コストとスケジュールの両面で順調に進める上で役立ちます。
次のステップ
サプライヤーリレーションシップマネージメントプロセスのデジタルトランスフォーメーションを開始するためのソリューションをご覧ください。
サプライヤー管理の自動化と効率化
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