デジタル化とデジタライゼーション
この記事をお読みになっているあなたはすでにデジタル化には対応されているかもしれませんが、デジタライゼーションの準備はできているでしょうか?
概要
この 2 つの言葉は似ているように聞こえるかもしれませんが、デジタル化とデジタライゼーションには顕著な違いがあります。そのわかりにくさゆえに IT 専門家の間でも混乱が生じています。ここでは、そんな混乱を解消したいと思います。
2004 年から 2020 年までの Google Trends を調べてみると、インターネット検索において「デジタル化」と「デジタライゼーション」がほぼ半々になってきているのがわかります。この均衡は、デジタル化の進化がデジタライゼーションの道を切り拓くという、デジタル時代の重要なマイルストーンを反映しています。
デジタル化とは?
デジタル化は、比較的シンプルでわかりやすい概念です。例えば写真や文書をスキャンするなどして、対象物をビットとバイトのデータに変換するとき、その対象物をデジタル化しています。文書をスキャンしてデジタルアーカイブにすると、1 と 0 でエンコードされたデジタル化バージョンが作成されますが、当該文書に記述された内容が変化することはなく、プロセスの中で文書がアクティブ化されることもありません。
デジタル化の定義:例えば写真や文書をスキャンするなどして、対象物をビットとバイトのデータに変換するとき、その対象物をデジタル化しています。
ガートナー社の用語集では次のように定義されています。「デジタル化とは、アナログ形式からデジタル形式に変換するプロセスであり、デジタルイネーブルメントとも言われます。別の表現で言えば、デジタル化とはアナログのプロセスを、プロセスそのものを変化させることなくデジタル形式に変化させることです」
ガートナー社は長年にわたって一貫してこの定義を使用していることに注目すべきです。これは、デジタル化がすでに長い間行われているためです。「A Very Short History of Digitization」(デジタル化の歴史のとても短い説明)では、デジタル化の起源を 1679 年のゴットフリート・ライプニッツによる二進演算の開発にまでさかのぼっています。
デジタル化は、20 世紀のコンピューティングと、そのデータ保存/処理/転送要件によって本格化しました。この機械的/アナログ的な電子技術からデジタル技術への転換は、第三次産業革命とも呼ばれるデジタル革命の原動力となっています。私たちの生活にデジタル化がどれほど広く浸透しているかを理解するため、次の事実をご覧ください。1986 年には全世界の情報保存の 99.2% はアナログで行われていましたが、2007 年までには全世界の情報保存の 94% がデジタルに移行しました。Google Analytics によると、2007 年までに「デジタル化」に関するインターネット検索の件数は大きく低下しており、これは些細な偶然ではありません。
これは、デジタル化がほぼ完了したことを意味しているのでしょうか?そんなことはありません。World Backup Day に合わせて公開されたニューヨークタイムズの最近の Tech Tip の記事では、重要な書類/写真/文書を保護するための手段としてデジタル化が推奨されています。ATM を使用した銀行取引、携帯電話による通信、バーコードスキャナーを使用する雑貨店、CD/MP3/DVD による音楽とエンターテイメントなどによって示されるように、デジタル化は現代生活の便利さと信頼性の同義語になっています。
デジタライゼーションとは?
モノや資産のデジタル化に必要な先行的取り組みによって、企業や産業全体でデジタライゼーションを行う準備が整います。組織とその資産全体のデータを高度なデジタルテクノロジーによって処理すると、ビジネスプロセスに根本的変化が生じて、新しいビジネスモデルと社会的変化がもたらされる可能性があります。
デジタライゼーションの定義:組織とその資産全体のデータを高度なデジタルテクノロジーによって処理すると、ビジネスプロセスに根本的変化が生じて、新しいビジネスモデルと社会的変化がもたらされる可能性があります。
ガートナー社の用語集では次のように定義されています。「デジタライゼーションとは、デジタルテクノロジーを使用してビジネスモデルを変化させ、新しい収益や価値創造の機会をもたらすことです。これはデジタルビジネスへの移行プロセスです」
デジタライゼーションの台頭は、クラウドコンピューティング、機械学習、人工知能、ビジネスインテリジェンス、モノのインターネットなど、過去 10 年の新しいデジタルテクノロジーの興隆とそれらのマスマーケティングに重なっていることに注目すべきです。これらデジタルテクノロジーの出現は、第 4 次産業革命における自動化を推進するための基盤となります。この「第 4 次産業革命」という言葉は、2015 年に世界経済フォーラムの会長であるクラウス・シュワブによって最初に使用され、2016 年にスイスのダボスで行われた世界経済フォーラムの年次総会のテーマとなりました。
上の図から、デジタライゼーションに関するインターネットの情報検索が近年で明確に一貫して伸びていることが見てとれます。
デジタライゼーションがもたらすメリット
自動化やデジタルテクノロジーを活用することで、企業は蓄積されたデータから新たな価値を引き出し、組織の変革を促進し、革新的なビジネスモデルを生み出せます。これが、デジタライゼーションの大きなメリットの一つです。
こうした取り組みを全社的に進め、効果を最大化するには、明確なDX戦略の策定とその実行プロセスの設計が不可欠です。単なる成果だけでなく、変革に至る過程にも価値を見出すことが、持続的な成長と競争力の強化につながります。
デジタライゼーションが重要な理由
デジタライゼーションを支えるテクノロジーは急速に進化し続けており、企業や社会全体で採用が進んでいます。しかしながら、デジタライゼーションは単により多くのテクノロジーを使用することではありません。組織にとってデジタライゼーションが重要な理由は、組織がエコシステムの中での自らの役割と利益増大の機会を認識する方法について新しい考え方とアプローチをもたらすからです。テクノロジーそのものが目的なのではありません。
デジタライゼーションを推進することによって、組織はコラボレーティブで、インタラクティブで、持続可能で、利益につながる新しいバリューチェーンとエクスペリエンスの創出を始めることができます。
デジタライゼーションを活用して組織を変革し、ビジネスの運営を向上させた企業の例をいくつか紹介します。
カスタマーエクスペリエンス:英国最大の独立したおもちゃ小売会社である The Entertainer 社は、子ども 1 人ひとりに最も愛されるおもちゃ店になるというビジョンを掲げています。SAP Commerce Cloud は、同社が顧客を理解し、5 つ星のエクスペリエンスを一貫して提供できるように支援しています。
従業員向けセルフサービスと従業員エクスペリエンス:ニューヨークを拠点とするグローバル小売企業の Tapestry 社は、全世界で 17,000 人の従業員が利用できる一元化されたポータルを活用し、年間コストを大幅に削減することができました。また、新型コロナウイルスの感染拡大時には、従業員の健康と安全に関するパルスチェックをリアルタイムで行うことができました。
サステナビリティ:Salzgitter 社は、テクノロジーを活用してカーボンフットプリントを削減し、鉄鋼業界における持続可能な変革を実現しています。
貴社のデジタライゼーションの事例をお聞かせください
貴社のビジネスはデジタライゼーションへの歩みを進めているでしょうか。もしそうであれば、それを始めたのはいつでしょうか。多くの組織では、企業全体のすべてのデータを、一元化、統合化されたエンタープライズリソースプランニング (ERP) システムにまとめることによって、この取り組みを開始しています。ERP では、データを照合して整合をとり、ビジネスおよび個々のビジネスプロセスの状態に関する「唯一の正確な情報源」を提供します。ERP システムのメリットとしては、効率向上、最新のビジネスプロセス標準化、ビジネスデータに対する可視性の向上が挙げられ、より良いデータに基づいて意思決定が迅速化します。
次世代のクラウド ERP ソリューションでは、これらのビジネス上のインサイトがリアルタイムで提供され、企業は変化し続けるビジネス環境に応じてプロセスやモデルを迅速に導入、変更することが可能になります。企業がデジタルトランスフォーメーションに向けた取り組みのこれら最初のステップを開始することによって、ビジネスを再考する新しい機会が生まれます。
